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お風呂上がり

風呂上がりにはアイスかコーラ。

それがアメリカの習慣であるらしく、度々突撃訪問を食らうイギリスもまたアイスとコーラを常備してあった。不思議なことにそれらのものはアメリカによって期限内にきちんと消費され、冷蔵庫の奥底で一生を終えることは一度としてない。

「……しまった」

しかしある時、またしても強襲に見舞われたイギリスは買い足すことをすっかり忘れていた。気付いた時にはもう遅く、シャワーのアメリカはそろそろバスルームから上がってくる頃合いだ。アメリカがやってきた時点で思い出していたらいいものを、近頃頭がぼうっとするせいか今の今まで念頭に浮かびもしなかった。……ボケてんのかな。冷気を顔に浴びながら冷蔵庫の前で打ちひしがれているイギリスの背後から不意に片腕が伸び、開け放したままの扉がぱたりと閉じられた。

「随分長い考えごとだね」

アメリカが頭に掛けたままのハンドタオルがまず目に入り、それから頬に触れる熱へイギリスは視線を向ける。「冷たくなってる」いつの間にかイギリスの肩頬を包めるほどに広く大きくなっていたアメリカの手のひらだ。

「……お前も、まだちゃんと髪拭けてねぇよ」

「じゃあ、イギリスがやって」

手首を掴まれ、アメリカの頭にまで持っていかれる。イギリスは仕方ないとでもばかりにもう片方の腕も使ってタオルで掻き混ぜた。立ったままの体勢だと少し背伸びをしなければいかなくて、プライドの高いイギリスは背伸びの分むくれた顔をした。

「うわっ」

すると突如腰を引き寄せられ、あっという間に抱えられるとソファに降ろされる。アメリカはまたひとつイギリスの尊厳に傷を付けた。

「ちなみに言っておくが、アイスもコーラも買い置きねぇからな」

「じゃあ、一緒に買いに行くんだぞ」

「何でそうなるんだよ!」

髪の毛を拭かれる間、なすがままになっていたアメリカは顔を上げるとそのコバルトブルーの瞳をイギリスへ向けた。それで一瞬たじろぐイギリスに、眩ゆいほどの笑顔を見せる。

「ついでにレンタルショップにも寄ろう。きっと気晴らしになる」

「…………」

どうしてか、調子が悪いことに勘付かれていたらしい。また一本取られたと思ってイギリスは更に表情を複雑なものにする。

「分かった。飛びっきりのホラー映画を選んでやるよ」

「君ってば実にめんどくさいなぁ!」



 

風呂上がりにはアイスかコーラ。無かった場合には二人で買い出し。後者のことをアメリカはこっそり「デート」と読んでいて、実は在庫切れを画策していることにイギリスはまだ気付いていない。

​end.

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